平井さんの著作

わたしのウエブサイトのリンクで紹介しています平井隆之さん ご夫妻が百名山を完登した記念に、昨年末に本を出版しました。 その紹介です。

平井 隆之・平井 清子著『山旅のアルバム』(非売品)

リンクでご紹介したように、平井さんはヒマラヤの未踏峰シャ ルプ(7,100m)の初登頂をした登山家であるだけでなく、写真を はじめ、蝶の蒐集、温泉めぐり、桜の研究、造園技術など、趣 味の幅がほんとうに広い方です。しかも、いったん手に染める と、その道をきわめるまで止めないという徹底振りで、まさに 多才・多能な方です。わたしが彼の多才・多能なことを知った のは、もうずいぶん前のことです。入社してはじめての現場、 福井県の敦賀へ赴任したとき、平井さんは結婚してまだ日の浅 かった奥さんを帯同して、すでに敦賀で生活をしていました。 新参者のわたしは、奥さん共々、彼にはたいへんお世話になり ました。とくに、下宿の賄いに辟易していたわたしをしばしば 食事に誘って下さり、たいへん有難く思ったものです。山男の 常で、彼も決して多弁ではありませんが、食後などに、山の話 や蝶の蒐集などの話を聞かせてくれ、無趣味に近かったわたし は彼の多才・多能に舌を巻いたものでした。その彼が、奥さん との共著で本を出版すると聞いたときは、期待感で胸をふくら ませたものです。

『山旅のアルバム』は、山旅の記録・写真、蝶の蒐集と蝶画、 そして温泉めぐりが、三つの柱になって構成されています。一 見して、個々に関連がないように思えますが、著者の説明によ れば、中学の頃、夏休みの課題としてまとめた昆虫標本が先生 に褒められたのがきっかけで昆虫、とくに蝶々の採集にのめり 込み、蝶々を求めて山に入るようになり、山登りの疲れの癒し に温泉に入るようになった、とのことです。となると、個々に は独立した趣味でも、互いに結びつく必然性があり、山とか蝶 になれば、相当の写真技術が必要となるわけです。本人は、「下 手な横好き」とか、「生来の怠慢さ」などと謙遜していますが、 なかなかどうして、のめり込んだら何事も満足できるまで徹底 する性格で、各々の趣味が単なる趣味の域にとどまらず、素人 のわたしがいうのでは口幅ったいかもしれませんが、プロの世 界に入り込んでいるといえます。そもそも登山に関しては、昭 和38年にヒマラヤの7千メートル級の山に初登頂するほどの、 まさにプロですし、写真の腕も、撮影者名入りで平凡社の百科 事典に載ったほどです。蝶のことはよくわかりませんが、温泉 については、こんなふうに評価できると思います。じつは、わ たしも仕事の関係で、何人かの温泉の専門家を知っております。 温泉の掘削を主に温泉工学で学位を取得した方、気候物理ある いは温泉医学の面からの研究者、さらには保養・健康増進の立 場からの研究者などです。当然のことながら、そのような方々 は海外を含めて、ひろく温泉地をまわっています。そうしたプ ロとは別に、いわゆる温泉オタクもいて、在米中の娘の話では、 アメリカ・カリフォニアの山中に散在する温泉を求めて入りに 来る日本人も結構多いようで、環境・衛生面でいろいろ問題を 起しているようです。しかし、平井さんの場合、登山との関係 で秘湯めぐりから始まり、純粋に入湯を楽しむ目的で温泉めぐ りをしており、実際に温泉地をまわった数からいえば、プロの 方たち以上ではないか、とわたしは思っています。2,000ヶ所 あると称される日本の温泉地の、じつに40%ほどへ訪れている のです。半端ではないですね。しかもほとんどが、ご夫婦そろ ってなのですから、これには驚かされます。

そんな平井さんご夫妻の書かれた本が、面白くない筈がありま せん。それに、文才にも長けていて、平易で、たいへん分かり やすい文章で書かれています。それでいて、山紀行については 記録としても貴重であり、蝶に関しては貴重な図鑑であると同 時に学術的な記述になっています。温泉に関してのリストや記 述はちょっとした温泉のハンドブック的な存在だと申せます。 ちなみに秘湯と称される温泉でも、一般の人が容易に訪れられ る温泉もありますが、平井さんの称する秘湯はほとんどが山の 中、その中でも秘湯中の秘湯として3ヶ所挙げられていますが、 丸二日の山歩きでようやく達することのできる高天原温泉をは じめ、すべて富山県だということは肯けますね。彼は、「この本 には特に筋書きがあるわけではありませんので、どこでもお好 きなページからお入りください」と書いていますが、まったく そのとおり、好きなとき、好きなページをひも解くと、どのペー ジにもすばらしい写真があり、面白く楽しい文章がとび込んで きます。大人のための絵本ともいえるのではないでしょうか。 ただ一点、わたしには残念なことがあります。それは、多才で 器用でもある平井さんのこと、印刷・製本を除いて、企画に始 まり、DTP(パソコンとレイアウト用の専用ソフト)を用いて、 編集、レイアウト、デザイン、そして校正のすべてを自分でな さり、出版社を通さずに、部数限定の非売品として上梓された ことです。したがって、平井さんご夫妻にはそれなりの深い思 慮で決められたのはよくわかるのですが、これほどのすばらし いご本が、限定された方の目にしかとまらない、というのは如 何にも残念なことです。

ご夫妻の意を汲んで、この本を末永く座右の愛読書として大切 にするとともに、機会をとらえては、多くの知己の目にふれさ せたいと考えております。
(平成21年 2月)

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