マグレブを舞台にした映画 『望郷』の舞台になったホテル
映画大好き人間だったわたしが、加齢とともに出かけるのが億劫になってしまい、最近は映画館へ出かけることがめっきり少なくなってしまいました。調べてみたら、昨年3本、今年はまだ『船を編む』1本だけです。つい3、4年前まで、横浜日ノ出町にあるJack&Bettyという2館から成る映画館の双方をハシゴして、一日で3本観るということも厭わなかったのに、どうしちゃったのかな、と気にしているほどです。もっとも、好きなものは好き、TVの刑事ドラマやチャンバラ(古い!) などはよく観ています。 カサブランカ
戦前というといかにも古そうですが、日本では、ほとんどの映画は戦後になってから封切されたものばかりで、わたしは『地の果てを行く』以外は観ています。じつを言うと『外人部隊』は記憶があいまいで、もしかしたら『モロッコ』と混同して、観たつもりになっているのかも知れません。『ボージェスト』は大井町の映画館で観たことまで覚えています。ただし、この映画はサイレントとして、「コールマン髭」の名を不朽のものとしたロナルド・コールマン主演の映画でしたが、わたしが観たのはそれではなく、1942年のリバイバル版で、お馴染みゲーリー・クーパー、スーザン・ヘイワード出演の方でした。高校生のころでしたか、内容を理解するにはまだウブだったのでしょう、あまり印象の残らない映画でした。『モロッコ』はよかったですね。ウブなわたしにはマレーネ・ディートリッヒは好きになれなかった女優でしたが、この映画でのアミー・ジョリー役はうってつけでした。そういえば、相手役はこの映画でもゲーリー・クーパー、彼の外人部隊の白い軍服姿は、はまっていましたね。もっとも、ちょっとイケメン過ぎたかも知れませんが……。討匪作戦のため、鼓笛隊のドラムの音とともに砂漠の中へ小さくなっていく軍列の後ろ姿を追って、ハイヒールをポイッと砂漠に投げ捨てて懸命に歩むアミー、今でもまぶたに残っています。熱砂の上を素足で歩けるのかな?そんなことを考えるなんて野暮なことでしょう。昭和30年代に流行った大高ひさをの『カスバの女』の詞の一節、 アルジェの戦い 『風とライオン』は1975年のハリウッド映画です。わたしはTVで観ました。人質にとったアメリカ人の母子をめぐって、モロッコでの列強間で主権を争うつばぜり合いの中、誇り高きベルベル・リーフ族の首長ライズリとセオドア・ルーズベルト・アメリカ大統領との間の心のかっとうを微妙に絡ませたストーリー、言ってしまえば活劇映画です。ショーン・コネリーという大物俳優の主演ですが、まあそれだけの映画でした。TVで観たと言えば、旅の途中で拉致され永いことベルベルの首長の奴隷にされていたイギリス人女性が、捜し求めていた大使館に救出・保護される、といった興味ぶかい内容の映画がありました。うっかり題名をメモしておかなかったことは、残念なことでした。アルジェリアの映画では、『アルジェの戦い』はすごい映画です。フランスからの独立戦争を描いたもので、その後に多発している、いわゆるテロ行為の原形のすべてがこの映画から始まったと言えるでしょう。ヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞の名作です。『ヴィヴァ!アルジェリア』は数年前に横浜フランス映画祭で上映されたものです。かの地でお世話になった大使夫人にお声を掛けられて観に行ったのですが、「うん、まあ」としか言いようのない映画でした。 望郷
上述の9作品の中では、秀逸なのは、やはり、『カサブランカ』と『望郷』の二作品でしょう。どちらも名作で多くの方がご覧になったでしょうから、ことさらあらすじは書きません。『カサブランカ』のすばらしいところは、映画としての面白さもさることながら、第2次世界大戦中、ヒットラーによってパリを追われたフランスが樹立した親独のヴィシー政権下でのモロッコを舞台に、じつによく時代背景が描かれている点です。ナチスドイツの手から逃れてようやくモロッコまでたどり着いても、ビザがなければ出国できない過酷な運命を、いたずらに暗いタッチで描かずに、酒と音楽とギャンブルに満ちたキャバレーという閉ざされた空間の中だけで描き切ったマイケル・カーティス監督の手腕は、さすがアカデミー作品賞に値すると思います。わたし個人としては、ドイツ軍将校たちが、まわりの客たちを睥睨(へいげい)するように合唱した愛国歌「ラインの守り」の荘厳さが、客が対抗して謳ったフランス国家「ラ・マルセイエーズ」の前では、空気の抜けた風船みたいに萎んでしまったシーンが好きでした。全編に流れる“As Time Goes By”のメロディ、「君の瞳に乾杯!」、リック(ハンフリー・ボガード)の吐くきざなセリフ、ハンフリー・ボガードだから許されたセリフでしょうね。主演男優賞にノミネートされながら受賞できなかったのは残念でしたが、ことばにならないほど美しかったイングリッド・バーグマンがノミネートされなかったことに、遠慮でもしたのかも知れません。 (2013年10月) |
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