日本語を学ぶ若者間の格差

本年3月からボランティア・チューターをしております横浜 YMCA学院専門学校日本語学科の卒業・修了式が9月18日 に行なわれました。
卒業生は7名、残りは学期修了者でした。卒業の資格は本校 に1年以上在籍し、その間進級して2学級(本校は初級、中 級、上級各2クラスあります)以上に在籍というのが条件で す。卒業生の進路は、日本の大学・専門学校へ進学したり、 日本企業に就職するか、人によっては帰国するケースもある ようです。東京工業大学や埼玉大学のような国立大学へ合格 する優秀な学生さんもいますが、多くは職業専門学校へ進学 し、それから就職しているようです。ちなみに、わたしが面 倒をみているインドからの女子学生は、昨年10月の入学で、 初級、中級の2クラスに在籍した修了生で、今年の10月か ら上級のクラスへ進級し、来年3月に卒業の予定です。卒業 後は帰国し、お父さんの会社(服飾産業)で働くとか。 修了生の中で最優秀の成績をあげて表彰されたのは韓国の女 子学生でした。成績はむろん1番でしたが、欠席・遅刻なし、 そしてYMCAへの日ごろの貢献度も評価対象だったようです。 おとなしそうな、いかにも勉強家というタイプでしたが、い ずこの国も同じようないわゆる秀才タイプはいるのですね。
ところで、この式に参列していて感じたことがあります。それ は、同じくボランティアをしている、横浜磯子区の国際交流 コーナーの相談室へ来る若者たちとの格差です。 国別では、YMCAの学生では中国人が半分近くと圧倒的に多 く、台湾、韓国、ベトナム、タイとつづきます。フィリピン、 それにブラジル、ペルーなどの南米からの学生は1、2名いるだ けです。そして多くが、留学ビザによる入学です。それに対し て、相談コーナーへ来る若者は、人数的には、中国が多いので すが、その次は南米、そしてフィリピンとなります、入国ビザ は多くが就業ビザであり、新たにビザの取得を求めて来た人も います。
就業ビザは、噂には聞いておりましたが、それを斡旋 する業者がおり、その場合は業者が間に入っておりますので、 若者たちが直接相談に来るケースは少ないし、日本語を学ぶ 世話も業者がやっているようです。問題は、日本人男性と結婚 した(と思われる)外国の女性が、自分の連れ子を日本へ呼ぶ 事例が結構多いことです。その場合、来日した若者たちはまっ たくと言ってよいほどに日本語の読み書きはできません。むろ ん幼児も同様ですが、幼児はまだ救いがあるでしょう。若者た ちは日本語を学びたいから相談に来るわけですが、学費は出せ ないということなので、磯子区内あるいは近隣の日本語教室を 紹介することになります。しかし、教室の多くはボランティア 活動によって運営されており、せいぜい週1回、2時間ていど の授業です。幼児ならいざ知らず、いい若者がそこへ通ったか らといって、すぐに日本語が上達し、日本の社会へ溶け込むと はとても思えないのです。わるいことに、日本へ来るきっかけ をつくった日本人の父親(戸籍上はそうなるのでは?)、仕事 に追われ、子供の教育には手がまわりません。片言の日本語を しゃべる母親もパートで忙しく、それどころではないという のが現状です。いきおい若者たちは引っ込みがちになるか、最 悪の場合は、ぐれてしまわないか、犯罪に手を染めてしまわな いかと危惧されます。 YMCA の学生さんたちは、親が授業料と生活費を出してくれ、 自分たちも定められた時間内のアルバイトで小遣いをかせげる といった恵まれた若者たちです。初級クラスでもあるていどの 日本語をしゃべるし、毎日の授業でますます上手になって、日 本での生活をエンジョイしています。彼らは明るく、屈託なく、 ある種の目的を持って学んでいますので、日本の若者以上に未 来に希望を持っているようです。 このように見てきますと、いろいろな方面で格差が大きくなっ ている日本の社会の中で、もう一つの、深刻な格差が生じてい ると申せます。誰の責任なのか、どうすればいいのか、じつは、 わたしにもわからないのです。
 (平成20年 10月)

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