アライグマとの攻防戦 捕獲された母親アライグマ
いままでウェブサイトに書いたことはないのですが、じつはもう30数年にわたって、わたしは富士北麓に小さな山荘を所有していました(本稿が出る頃には手放しています)。 捕獲された2匹の子どもアライグマ 27日の早朝、目覚めてすぐに捕獲器を見に行きました。2匹の子供アライグマがかかっていました。予想に反して、メスのアライグマはすでに子供を産んだあとだったのです。物の本によれば、アライグマのお産は春、それも4月がピークだそうですから、屋根に穴があけられたのは春先で、屋根裏に這入り込み、子供を産んで、親子でわが山荘の屋根裏に住んでいたことになるのでしょう。そう考えてはじめて、ゴールデンウイーク前、アメリカから一時帰国していた下の娘一家と山荘に来たとき、屋根に小さな穴のあることを発見し、そのときは深く考えもせずに、別荘地に出入りの便利屋さんに補修を依頼したことを思い出しました。うかつなことで、腹立たしくもあったのですが、2ヶ月もの間、アライグマ親子に屋根裏を占領されていたわけです。捕えた2匹のアライグマは、処分のために管理事務所経由で鳴沢村役場に持ち込みました。軽トラックに乗せられて運び出されるアライグマ、神妙な顔つきで体を寄せ合っていました。トラックの運転手が「かわいそうだな」と口にしていましたが、たしかに一瞬、憐憫の情がよぎりました。ちなみにアライグマは害獣で駆除対象動物なのですが、一方で「外来生物法」による規制があって、捕獲・処分はやたらにはできず、役所の許可が必要なのだそうです。富士北麓の別荘地の場合、被害が多発ということで、管理人が講習を受講する条件で、管理事務所経由で役場に持ち込めば処分してくれるという特例が出来ており、その点は大いに助かりました。そうでもなければ、専門業者をさがして依頼しなければならず、対応がおくれたことでしょう。この夜、2匹を捕えたにもかかわらず、天井裏では真夜中の4時まで騒々しく、明け方まで眠れませんでした。もしかしたら2匹を失った母親の恨みのこもった仕打ちだったのかも知れません。それに、捕えた2匹以外にも子供がいることも考えられました。 屋根にあけられた穴 翌朝は、捕獲器内のエサを奪われただけで捕獲はできませんでした。昨日の捕獲器は役所に預けたままなので、代わりに役所のものを設置したのですが、これは踏み板式でエサを食べようと踏み板をふむことでワナがかかるタイプだったのです。それに対し昨日のものは、エサに食いつけばワナにかかるので、確実性が高まるのです。踏み板式では、利口なアライグマは警戒して踏み板をふまぬようにエサだけを奪ってしまうこともあるようです。昼ごろ、応援に頼んでいた妻が昼のバスで河口湖駅に着きました。さっそくレンタカーを借りて、役場、県立の富士山科学博物館、富士吉田市中の薬局などを精力的に回りました。あのしたたかそうな母親がおいそれと捕獲できるとは思えませんので、捕獲のための情報の収集、有効と思われる薬剤・必要な物品の購入にあたるためでした。結果としては、役立ちそうな情報は得られず頼りは博物館図書室の書物だけでした。薬剤も小動物駆除の専門業者に聞いてみてくれということで、結局、自分たちだけで何とかするしか手だてはありませんでした。夕刻、前回とまったく同じ位置にエサ吊式の捕獲器を設置しました。いつものように夜に入ってエサ探しに出ていったん戻り、天井裏、間仕切壁辺りで活動する音が静まったのは10時頃で、はじめて耳にした妻はその音の激しさと不気味さに驚いていました。深夜の11時にはたぶん外へ出ていることを見越して、アライグマの追い出しに効果があるかどうかを試すために、「加熱蒸発殺虫剤」(商品名アースレッド)2ヶを屋根裏にセットしました*1。深夜の2時頃にはまた音がしましたから、もどって来ていたのでしょう。効果はあまり期待できないようでした。 屋根裏にセットした加熱蒸発殺虫剤 29日の朝、一瞬わが目を疑いました。なんとケージ内に母親が神妙な顔をしてうずくまっているではありませんか。大成功でした。体長は55〜60センチ*2の大物で、1人ではトラックの荷台に乗せられず、急遽もう1人の応援をよんだほどで、役場の担当者も驚いていたようです。これで一件落着かと思い、わたしたちは安どし、捕獲器も撤収してもらいました。ところが、夜の9時頃、いつものようにリビングと洋間との間から音がするのです。点検口から覗いたところ、案の定、1匹の子どものアライグマが懐中電灯の明かりに照らし出されました。わが山荘の内壁の造りは、柱と柱とを壁で被覆することで中空部をつくる、専門用語でいう大壁の様式です。本によりますと、アライグマにとってはこの中空部のあることがもっとも狙いやすい構造だそうで、とくにお産・子育てにはかっこうの場なのだそうです*3。その点では、わが山荘は、人の住む部屋内をのぞいたすべての空間をアライグマに占拠されていたことになるわけです。一つ屋根の下でのアライグマとの同居生活はまだつづくのか、これからどうなるのか、暗鬱とした気持で眠れなくなりました。翌30日、再度捕獲器をセットしました。今度は置き場所を、屋根への登り降りに使っている玄関横の大きなカラマツの下にしました。3度目も同じところではまずいかなと考えただけで、この判断が正しかったかどうか、その後の捕獲は結果的にはありませんでした。夜行性のアライグマは日中の動きはまったくありません。したがってこの日は捕獲器を設置したほかには何もすることはなく、日がな一日呆然と過ごしただけでした。 天井裏に潜んだ2匹の子どもアライグマ
月が替わり7月1日となりました。捕獲器の中のエサはそのままで、近づいた気配は感じられませんでした。一方で、点検口からは子供のアライグマが2匹いることが確認されました。そうなると、ワナにかかるのをただ待つだけでは長期戦となる恐れがあります。こちらも疲れがたまってきたし、なんとかしなければならないが、さてどうするか、苦慮しました。考えられる作戦としては、2匹を屋根裏に閉じ込める、2匹を屋根裏から追い出す、の2点になります。前者では、閉じ込めた後の作業が難しくなりますから、後者がベターだと考え、追い出す手だてを講ずることにしました。そのためにはアライグマの行動パターンをはっきりつかむ必要があるということで、夕方から1時間ごとに天井・壁からの音のキャッチ、そして点検口からの2匹の監視をすることにしました。その結果、彼らの行動パターンは、夕方から行動を始め、薄暮の時間帯には1匹がカラマツの幹の辺りから屋根に移るなどちょろちょろしており、しばらくは屋根裏にとどまる気配でした。そして9時ごろに屋根裏に姿が見えないので外出したと判断し、その外出中に、屋根の開口部を厚いベニア板でふさぎ、彼らがもどって来ても屋根裏に入れないようにしました。その後の監視でも10時、11時になっても姿はなく、追い出しに成功したと確信し、安ど感からその夜は久しぶりに熟睡することができました。翌朝、屋根裏を確認したところ、何となんと、2匹のアライグマがスヤスヤと寝ているではありませんか。愕然としました。なぜなのか、なんのことはない、屋根にはもう1か所穴があけられていたのです。先に見つけた穴と比較して光の量が弱かったので判断できず、屋根に上がっての確認は危険が伴うために、ついうっかりして見逃していたのです。たいへんうかつなことでした。作戦失敗で力をおとしましたが、作戦としては間違いないことを確信しましたので、この日の夜、横浜駅西口行のレークライナー最終便でいったん帰宅して鋭気を養い、捲土重来を期すことにしました。
*1 使用法にしたがって注意したつもりでしたが、2人して噴出した煙を吸い込んでしまい、瞬間、呼吸ができないような症状となり、30分ほど激しい咳き込み、軽い嘔吐の症状となりました。妻の「水を飲むといいんじゃない」、という声で水を飲み、ようやく収まってきました。彼女は、「死ぬんじゃないかと思った」と言っていましたが、けしてオーバーな表現ではありませんでした。殺虫剤ってこわいですね。 (2016年12月) |
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